朝8時30分。テレビをつけると、えらくずんぐりむっくりの体型をした猫がこっちに向かってよちよち歩いてくる。水色の体に縁取りされて、白い色した顔と腹。しかも、腹にはポケットまでついてるときたもんだ。ナレーションが入る。"DORAEMON - El gato 〜"。 "gato"は「猫」。その後に続く言葉は、聞き取れず。
タイトル画面に続き、「あんなこっといいな、でっきたらいいな」というお馴染みのオープニング曲。ただしスペイン語吹き替え版。「アン・アン・アン とっても大好き ドーラえーもん」の部分は、"An An An, tu siemple ganas DO RA - EMON"となっている。「なんでもできるね」という意味合いか。ドラえもんのこと、そんなに好きではないのかもしれない。ちなみにアクセントは、「ド"ラ"えもん」。
毎朝、スペイン語の勉強と称しては呆けた顔して見入っているのだが、ここで問題が起こる。ほんの10分後くらいから、裏番組で「カルピスまんが劇場」が始まるのだ。中身は、「アルプスの少女ハイジ」。ちょうど今朝、最終回を迎えた。クララが、クララが歩いたのよ(泣)
この冬のアルプスを裸足で走りまわる元気(ちょっとアホ)な女の子、日本では「ハイジ」で親しまれているが、原作の表記は"Heidi"。こちらの吹き替えでも、「ヘイディ!」と呼ばれている。では、なぜ日本では「ハイジ」と訳されたのか。間違いない、翻訳者が「アルプスの少女平次」と言ってみて笑いが止まらなかったに違いないのである。
現在スペインのテレビで放送されている日本発アニメはこれだけではない。夕方には「マーマレードボーイ」という数年前にテレビ東京が制作したらしいものが、日曜には「るろうに剣心」が。アンダルシア地方に旅行した際にはなんと「マジンガーZ」まで見た。その他、売られているグッズを見ると、「ドラゴンボール」や「母を訪ねて三千里」も最近まで放送されていたことがわかる。
そしてついに、奴がスペインへやって来た。
江東区在住の姪っ子をはじめ日本中のちびっこ数万人(大人少々を含む)を失神させ、NewsweekだかTIMEだかのアジア版で「今年一番のニュース」に選ばれ、Nintendo 64がコケているにもかかわらず佐々木(横浜→マリナーズ)に17億円出せるくらい任天堂アメリカを潤わせている不敵な奴。その名は、"POKE'MON"。
さすがにアジア・アメリカを征服済みということで、放送前からものすごく話題になっていた。こちらの新聞、またテレビニュースでも繰り返しポケモンを取り上げられていた。あまり好意的なものはなかったんだけど。それは日本でも同じだったか。
12月20日、きっちりクリスマスの週に放送開始。オープニングの曲はもちろん吹き替え。続いて今回の話のタイトルが表示されるのだが、これは英語。アメリカ向けに作られたものを使っているのかもしれない。そういえば、日本で「カスミ」と言っていた女の子の名前が「ミスティ」になっているようだ。完全に英語仕様だな。しかし、名前も訳すべきなのか?
スペイン語吹き替え版では、主人公が目指すのは"Maestro POKE'MON"。「ポケモンマスター」というよりもなんだか仰々しくて笑っちった。「うそ、お前、マエストロ・ポケモンの称号を手に入れたのかよ」なんつーのかね。そんでもってピカチュウは世界中どこでもピカチュウ。私もピカチュウの台詞だけは完璧にわかる。「ピッカー!」、「ピカチュウ!」。まぁね。
実は初めて見るポケモンが終わって、またまた吹き替えされたエンディング曲。姪っ子が取り憑かれたように歌っていたのと同じ、ポケモンの名前を次々と連呼するあの曲。「ポケモンいえるかな?」っていうやつか。全部で150匹のポケモンを〜って、あれ? 151匹じゃなかった?
ここで、なんともスペイン的な驚愕の事実が明らかになる。スペイン人は、どうやら中途半端な数が嫌いらしいのだ。それもハンパな嫌い方じゃない(だって半端が嫌いなんだからね)。どれくらい嫌いかというと、ふだんスーパーでもデパートでも1Pts硬貨は使わないくらい。1.008円なら1.010円払ってお釣りなし、1.002円なら1.000円払えばOK。
ということで、そんなスペイン人気質のためにポケモンは総数が1匹減って150匹ジャスト。いったいどのポケモンが抹殺されたのやら。しかもこうして秘密裏に葬られるのはポケモンに限らない。ディズニーでアニメ化もされた名作「101匹ワンちゃん」だって、ここでは「100匹ワンちゃん」になってしまう。おい、どのワンちゃんをいないことにしちゃったんだよゥ。しかし、なんともあっけらかんとしたタイトル。佗びも寂びもムードもなんにもない。確かにスペイン的。でも、変えるなよ、タイトル…。
というわけで、これからスペインでもポケモンブームの嵐が吹き荒れるだろう。でも、悪くないかもしれない。
日本にいる姪(8歳)・ダンナ方の姪(5歳)は、世紀末日本ちびっこの例に漏れず、あの呪文のようなポケモンのエンディング曲を歌っている。アメリカにいる兄嫁の甥(7歳)だってポケモンの大ファンで、同じ歌を叫んでいるそうだ。来月には、スペインのちびっこたちも声を揃えて歌っているに違いない。
彼らが初めて顔を合わせる時、言葉はわからないかもしれない。でも同じ記憶とともに、同じ曲を歌うことができる。イメージの伝達こそが言葉の役割だとしたら、彼らは、ちょっとだけど、共通の言葉を持っているということになるのかもしれない。うん、悪くない。
でも、おばちゃんにはあの呪文みたいな曲は覚えられへんわ。仕方ないから、正攻法でスペイン語を勉強するとするか。あっ、1個覚えたわ。「マスター」は"Maestro"ね。