"スペイン風に明けまして"

 驚くべきことに、スペインも日本から遅れること8時間、ちゃんと2000年に突入した。電気も水道もガスも異常なかった。ただ異常だったのは、人々の騒ぎぶり。

日本の除夜の鐘に相当する行事が、スペインにもある。「新年を告げる鐘が鳴る間に、ブドウを12粒嚥下する」というものである。今年もソル広場に集まったぎゅうぎゅう詰めの市民が、広場に面する市庁舎の鐘の音を聞きながら(といっても、騒ぎ声でほとんど聞こえない)、大慌てでブドウを頬張っていた。去年ダンナは参加したらしいのだが、今年は私とともに自宅でTV観戦。

ソル広場は、すっかりできあがった群集が、無数にきらめくシャンパン壜の破片を踏みしだきつつ、ブドウの汁を飛ばして抱き合うという、阿鼻叫喚の図。テレビのこちら側は、まさに「観戦」気分。小さい部屋の赤いソファーに並んで腰掛け、私とダンナもカウントダウンとともにシャンパン(こちらでは「Cava - カバ」というちょっと間抜けな名前)を飲み干す。「明けまして、おめでとーっ!」と日本風に挨拶したところで、爆発音。慌てて窓辺に駆け寄る。


 窓を開けて覗くと、通りを挟んだピソの住民が、なんと3階から下の道路にロケット花火を投げている。その爆発音だったらしい。「よかった、テロじゃなくて」 ホッとして窓を閉めようとすると、今度は他の場所から爆発音。恐る恐る反対側の窓から覗き見れば、やはりロケット花火。そのうち、あちらから、こちらから、まるで長崎の祭り「おくんち(※)の際の爆竹のように、立て続けに爆発音が鳴り出す。破れかぶれで叫ぶ、「Felicidades! (おめでとう!)」

テレビでは、ソル広場やシベーレス広場で盛大に打ち上げられている花火が映っている。我が家もマドリ市内なのだが、かなり北部に位置するため、窓からは空の一部が明るくなっていることしかわからない。とても寒いので窓を閉め、いそいそと、日付が変わる前に作りそこねた蕎麦を茹で始める。

カウントダウンの中継を終えたテレビ局が、大晦日の夜から続く歌番組を再開する。ゲストはジプシー・キングスティナ・ターナー、スペインでとっても人気のあるグロリア・エステファン、それに日本でも郷ひろみの「ア・チ・チ」でお馴染みのリッキー・マーティン、同じく西城秀樹が「バイラモス」をカバーしているというエンリケ・イグレシアスなどなど超豪華。ほとんどが各局をかけもちして歌を披露する。


 3時頃、耳にする曲がこの日3回目くらいになってきたのでうとうと。すると、今度は爆発音ならぬ地鳴りが。慌てて再び窓を開けると、今度は近くのカスティージャ広場から大きな花火が立て続けに上がっている。煙の帯がセントロの方に続いているところを見ると、花火は中心部の広場から大通り沿いに北上してきたらしい。思わぬ花火にしばしみとれるが、よく考えると午前3時過ぎ。日本でやったら社会問題になるだろう。よくよくお祭り騒ぎ好きの国民である。

結局、6時半頃就寝。昼過ぎに起きて下の道路を見れば、見るも無残にロケット花火の燃え滓と割れたガラス壜となんやらわからんもんでグタグタ。一夜明けた町は、死んだような静けさ。


 こうして20世紀最後の年は始まった−とまとめたいとこなのだが、この国はそれすら許さない。「ようこそ、21世紀」 と、とある村の教会塔に大きなイルミネーションが掲げられているらしいのだ。単なる間違いではない。「2000年から21世紀が始まる」と思っている人が、少なくないらしい。そういわれれば、その方が自然なような気がせんでもない。

どちらにしろ、今年も「ようこそ21世紀」、来年も「ようこそ21世紀」で大騒ぎするに違いない。なんてったって、お祭り好きな人たちだからね。

来年、日本人の多数派的考えで21世紀が始まる時、私はなにをしているかしら。年明けてから知った、「プレゼントされた赤い下着で年を越すと幸せになる」というのをやってみようかしら。あなたはなにをしているかしら。なんにせよ、ともに幸せでいましょうね。それでは、今年もどうぞよろしく!


註:(※)「おくんち」というのは10月に行われる九州三大祭りの一で、龍踊りや獅子舞、阿蘭陀漫才やコッコデショなどで知られるのだが、これとは無関係であった。爆竹が狂ったように鳴らされるのは、お盆に行われる「精霊流し」(しょうろうながし)。さだまさしの唄ったあの。失礼。指摘してくれた「贋長崎市民」K.O.ちゃん、ありがと。



indexへ