"スシ食うねぇ!"

 ここに、8本の足をニョロリと動かすタコがいる。これを見てアメリカ人の兄嫁は”オー・マイ・ガッ!”と天を仰ぎ、私は茹でてぶつ切りにしてワサビ醤油……と算段して涎を垂らす。世界にはタコが一般的に食べられている国とそうでない国があるが、タコを好む国は、かなり魚介類全般を好む国と考えて間違いないだろう。日本しかり、そして、スペインしかり

スペインの魚屋を覗くと、日本と遜色ないほどの種類の魚が並んでいる。まず、欧米でよく食べられる舌ビラメカレイなどの白身魚。マスタラ(サザエさんみたいだな)、タラの一種であるメルルーサも人気。次に、いわゆる「青魚」。山のように積まれた新鮮なイワシ、大型のアジサバなど。この充実ぶりは、四方を海に囲まれる国ならでは。時にはさらに、カツオマグロなどの大型魚も姿を見せる。刺身で充分食べられる鮮度。そして、ズラリと幾種類も並ぶエビカニ類、イカタコなどへと続くのだ。

これだけ魚が好まれるには、ワケがある。大西洋と地中海に世界有数の漁場を持つスペインは、世界第10位の漁獲高を誇るのだ。あまり獲れるもんだから、もちろん、魚の大消費国である日本にも盛んに輸出がなされている。地中海や大西洋北部の高級クロマグロ(ホンマグロ)、アフリカ沖のカナリア諸島を中心としたタコが特に有名。実はタコって、日本が輸入するうちの実に約8割を、スペイン・モロッコ・モーリタニアの3ヶ国が占めているのだ。食卓でその肢体をピンクに染めてグッタリと横たわるタコ、ひょっとしたらスペイン産かもしれないよ。


 というわけで、スペイン人は魚大好き。そんでもって、米を食べる文化もある。だからなのか、世界に誇る日本食”sushi”はこちらでも大人気。最近ではどの日本食レストランも大盛況。たまに覗くと、客のほとんどは現地のスペイン人。箸を不器用に使いながら、スシを口に放り込んでいる。

ネタには困らない。マグロは上質のクロマグロが揚がるし、サーモンもトロリと脂が乗ったものが届く。エビもイカもタコも新鮮。シャリも心配御無用。バレンシア地方で、スペイン米はもちろん日本米まで生産されているのだ。

こういう事情が背景にあってか、スペイン国内のスシ消費量はうなぎ上り(カナ調べ)。いやマジで。もはやスペインでは日本人以上にスペイン人や中国人が日本食レストランを経営し、スシを握って客に出しているのだ。出前専門の寿司店『テレ・スシ』も大繁盛。そして、以前もお伝えした通り、ついにアレがオープンした。


場所はプラド美術館近く、有名高級ホテル『パレス』の対面。なんと2階建て。その名も高級色強い『銀座』。しかしてその実体は、回転寿司

12月に開業するや否や、そりゃもう大盛況。マスコミには取り上げられるし、サッカーチームのレアル・マドリアトレティコも貸し切りパーティーをしたという噂だし、予約は1ヵ月前にしないといけないほどらしい。実際はどうかというと、ちょっと高そうなのでまだ行ってないの。しかも、めちゃめちゃ混んでるらしいし。ゴメン、わかりません。


 レストランでスシを食うほどお金がない私たちは、パコが不敵な笑みを浮かべる(第14話参照)魚屋で鮮度の良いマグロを買い込み、プエロ(西洋ネギ、リーキ。日本の長ネギよりシャクシャクしている)を刻み込んでネギトロを作り、ガスパチョ(冷たい野菜スープ)用のボウルを丼に見立ててネギトロ丼を作るのだ。最後にKIKKOMAN醤油をかけて、できあがり!

ちなみにこの海外向けボトルには、サラダ・ドレッシングの作り方が書いてある。どうやら、「油7 : 砂糖 1 : KIKKOMAN醤油 1 : レモン汁 1 : 刻みニンニク少々」でできるらしい。海外風の和風醤油ドレッシング(?)、なんだか矛盾したものだが、興味のある方はどうぞ。


さて、今から1キロ700Pts(約400円かな)のイワシをさばくとしよう。ちなみに本日のパコは、「オラ! カナ。この間会った時よりも、ずいぶん綺麗になったんじゃない?」なんて嬉しいことを言っちゃってくれた後に、目をゴシゴシと擦っていた。そうかいそうかい、目が悪くなったってことなんだね。フン。……大好きだよ!



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