どうってことのない午後。いつものように、ポテトチップ”Lay's”(1袋160g、約900kcal)をバリポリポリと食べながら、PEPSIコーラをぐびぐび飲んでいた。ぼんやり眺めているTVには、ちょうどその”Lay's”と”PEPSI”の共同CMらしきものが流れている。男の子と女の子が仲良さそうに手をつないで画面向こうへ去っていくCM最後の場面、突然画面に「最高の出会い」なんて表示されたもんだからあたしゃひっくりこけたよ。だって、日本語で、だよ。
翌朝、ダンナを送り出して二度寝入りしようかと寝床に戻りかけた極上に幸せな瞬間、電話のベルが鳴る。しぶしぶ受話器を取ると、間違い電話。「この家にはそんな人はいません」「でも、番号は間違ってないもの」「えーっと(引っ越してきた、という単語を知らない)、あのですね、今、この番号の家に住んでるのは私たち日本人だけですが」「あっそうなの、私が間違ったようね、ごめんなさい」 と、だいたいこんなお決まりの会話を済ませて受話器を置こうとすると、「Lo siento(ごめんなさい)、サヨナラ!」だって。日本語で。これもターミネーター仕込みかね(第五話参照)。思わず眠気も吹っ飛んだよ。
ほとんどは、ちょっとしたオリエンタル・ムードに酔いたいプチ・ブル的趣向的、KARATE的SUSHI的KARAOKE的POKe'MON的関心の域を出ないものはであるが、日本的なものへの関心は決して低くない。
盆栽はかなり一般的に知られていて某自動車のCMではハリソン・フォードが車の上に載せて走ってしまうくらいであるし、以前も紹介したように(第十五話参照)寿司はかなり広く好まれている。「心・福・美」という3漢字をセットにしたインスタント・タトゥーも売れているし、最近では漢字だかカタカナだか文字化けだかよくわからない文字をデザインしたTシャツや掛け軸もどきよく見掛ける。
テレビのバラエティ番組では意味なく空手を繰り出す謎の東洋人がレギュラー出演していたり、出演者が意味なく合掌したりしている。
さらには現在、スペインの最大手デパートである”エル・コルテ・イングレス”ではオリエンタルフェアーが行われていて、マレーシア製の竹籠に中国製花器が入れられ、そこに盆栽がセットされていたりするのだ。
でもそれは、必ずしも日本への関心が高いということを意味するものではない。
日本の都市といえば”TOKYO”か”KYOTO”しか知らないのは当たり前。日本がどこにあるかわからない人がほとんどなのも、当たり前。日本が島国であるということだって、知らないのが当たり前。そんなことで驚いていてはいけない。日本が国であることを知らない人だって、口をあんぐり開けるほどいるのだ。
たとえば「そういえば、日本って中国のどこにあるんだっけ?」と聞かれる。もちろん、中国というのは毛利元就ゆかりの山の幸・海の幸に恵まれた、近年は広島東洋カープの赤ヘル坊やが睨みを利かすあの中国地方のことではない。
たとえば「どこの出身?」と聞かれて「日本(japo'n)」と答えると、その答えに納得したはずなのに続けざまに「で、中国? 台湾?」などと聞かれる。もちろん中国というのはあの悲しい瞳で地平を見つめる駱駝が佇む鳥取砂丘や倉敷なのかチボリパークなのかマスカット球場なのかそれともバブル崩壊で開発が止まって放置されているリゾートかとにもかくにも観光名所が散在する岡山があるあの中国地方のことではない。
先日たまたま、リーガ・エスパニョラの一部に所属する初の日本人選手として奮闘する城選手が特集されたスポーツ紙を見かけて慌てて購入した。「城選手の観戦ツアーを企画した旅行会社JTD」(惜しい!)などと書いてあるあたりからも日本関連の詳しい知識を持った人が携わった記事でないことは薄々わかったのだが、「バルセロナではNISSANやSONYの末端の社員までが諸手を挙げて城選手を応援」という書き方はなんとも前時代的で淋しい。
今後日西間の文化交流が進み、本当の意味で「最高の出会い」と言えるように……なんてまとめ方は性に合わないからやんないとして、と。思うにね、なぜにグリコのポッキーが、こちらでは「MIKADO」というなんともあざといネーミングで売られているのか。ここらへんが問題だと思うんすよ。
私は私の背の高さで、正月には着物も着るけど普段はヴィヴィアン・ウエストウッドなんかも着て、石川さゆりもカルメン・マキも椎名林檎もビリー・ホリディもジャニス・ジョプリンもパトリシア・カースも聴いて、鮨もゴボウもウサギもカタツムリもワニも食べて、日本酒も泡盛もラムもウォッカもサングリアも養命酒も青汁も飲んで、そんでもって企業の駐在員とかって恵まれた環境じゃなくて現地雇いとして多くのスペイン人と同じ場所で生活するこんなカワイコチャンがいるっていうのも日本人の真実である、ってことを伝えよう、と思ってます。
そんなん迷惑や、と思う日本人同胞の皆さん、ゴメンネ。わしゃ、やるのだ。どれだけ頑張っても「親父のコネ」と言われ続けるに違いないカツノリ(今シーズンから阪神に移籍した捕手にして、言わずと知れた野村監督の息子)よ、共に頑張ろうぜ。