リーガ・エスパニョラ(スペイン国内リーグ)が終わった。サッカーの話である。嗚呼サッカー! 幼少時より野球一徹、遊びといえば裏の空き地で母が与える100本ノック、小学生の夏はPL学園の栄光(ちょうど桑田と清原がいた)とともに過ぎ、中学生3年間は下敷きの工藤公康を見つめ、高校時代は父が与えてくれたアンチ巨人魂を燃え立たせ、大学時代は東京からわざわざ甲子園まで応援に行くほど阪神タイガースに心を奪われていたというのに! あれほどJリーグ人気に冷ややかな眼差しを向け、渋谷のヤング丸井で当時ヴェルディにいた武田選手を見かけても「スポーツ選手なら藪(阪神のエース)みたいに田舎の中学生みたいな垢抜けない派手なシャツ着なあかん。なんや、Jリーグの選手って。おっしゃれやねんなぁ」と顔をしかめたというのに。
未だに西鉄ファンのおとん、「お父さんがアンチ巨人やけん」という物凄い理由のために我が家で唯一巨人ファンのおかん、ワールドスタジアムを1日15ヘッダーは決める兄、スマン。サッカーもおもろくなってもうた。
というわけで19日、リーガ最終戦を観戦するため、いそいそとレアル・マドリー(REAL MADRID)のホームスタジアムであるサンチアゴ・ベルナベウへ。嗚呼レアル・マドリー! 欧州のクラブチームの頂点に何度も立ち、TOYOTAカップのために来日経験もある実力チーム。美形のラウル(RAUL)ほか多くのスペイン代表選手が在籍する人気チーム。ちょっと悪い顔のオーナー、圧倒的な人気と実力……、嗚呼これではまるであの忌み嫌う巨人ではないか。それなのに、強く惹かれてしまうのはなぜ。悔しさと嬉しさとが同居する複雑な気持ちを抱え、スタジアムへ足を踏み入れる。
サンティアゴ・ベルナベウは収容観客数8万人以上という巨大なスタジアム。今回一緒に観戦をする『わてら陽気な七人組』のうち、和歌山出身で長期滞在中のJ君とK君、スペイン人男性と結婚したものの彼はサッカーに関心がないというCちゃん、ダンナの友人のM君は初のサッカー観戦。これまで3試合見た私とダンナもベルナベウは初めて。スペインサッカーに詳しく観戦経験も多いTさんも、ベルナベウは久しぶり。みんな熱気溢れる巨大なスタジアムを目の当たりにして感無量、と思いきや、CちゃんとTさんお手製のオニギリを夢中で貪り食う。この海苔を巻いたオニギリ、案の定エントランスのセキュリティ・チェックで引っかかった。手製爆弾とでも思われたのだろうか?
リーガ最終戦、対するのは城選手の属するREAL VALLADLID。率直に言うと、格下。今シーズンいくら不調のマドリーといっても、来年の欧州チャンピオンズ・リーグ出場権が得られる4位までには入らないといけない。そのためには絶対に落とせない試合である。
さすがに城選手のいるバジャドリーVS超人気チームということで、スタジアムには日本人の姿も多い。後ろに座ったのも、V6のように恥ずかしげなく脱色した10代後半か20代前半とおぼしき日本人カップル。ウォーミングアップ中のバジャドリの選手たちを指差し、「ほら、あれが城だよ」「いやっだぁ、ホーント、ちっちゃあーい」と騒いでいる。振り返って「小さいのは、同じFWのビクトール(165cm)。城は180cm以上あるの」と教えたかったが、お互いのためにやめておく。そうこうするうち、試合開始。
スゴイスゴイとは聞いていたが、やはり凄かった。奴の名前は、ロベルト・カルロス・デ・シルバ(ROBERTO CARLOS de Silva)。坊主頭と少年のような表情と、他を圧倒する技と運動量を併せ持ったブラジル代表選手。
だってただ走るのと、足でボールを蹴りながら走るのとだったら、運動力学上(知らないけど)まず間違いなく前者の方が早いはず。それなのにロベカルは、フェイントで相手のマークを外した一瞬に前方へボールを蹴り上げ、しかもその落下点に最初に到着し、しかもドリブルしながら走っているのに他の選手を追いつかせず、しかも前から来たディフェンスの選手が足をめがけてスライディングしたり腕をつかんで引っ張ったりとかなり荒いプレーを仕掛けても恐るべき強さでボールをコントロールし続け、しかも最後には絶妙なパスを出す。まさに超一流。たまりません。
試合前は「城選手、頑張ってくれればいいなぁ。でもグアッピシモ(最高に男前)・ラウルにゴール決めて欲しいしぃ」と新婚気分の抜けない若妻ばりに甘えたことを言っていたのだが、ロベカルを見たからもういけない。城やラウルには申し訳ないけど、あなたごめんなさい(ヨヨヨと泣く)、私の心はロベカルに奪われてしまいました。
試合は、ラウルの不調などもあって膠着状態。そんな中、バジャドリーの小さな巨人・名FWビクトールが技を詰め込んだ見事なシュートでワン・チャンスをものにする。そうして1点リードされたまま迎えた後半、マドリーにフリーキックのチャンス。蹴るのはもちろん、我らが改め私のロベカル。
ロベカルのフリーキックはすごい。在北海道の夫婦揃って熱狂的マドリディスタであるTさんちでは、ロベカルのFK時には声を揃えて「ろべかるドーン!!」と言うのが習わしらしい。アホな夫婦やなと思っていたのだが(ゴメン)、実際に見て納得した。あれはもう、「ドーン!!」としか言いようの無い迫力。席を埋めた観客が固唾を飲んで見守る中、ロベカルの蹴ったボールはとてつもない重量感をもって芝の上を這ったかと思うと、恐ろしいことには重力に逆らって飛び上がる。それが凄まじい勢いでネットの上ポールにぶつかった瞬間、本当に「ドーン!!」という爆発音が巨大なスタジアムいっぱいに鳴り響いた。
「ろ・べ・か・る・ドーン!! だ!」 全身にザッと鳥肌が立つ。うわぁ、見ちゃったよ。ダンナと顔を見あわせ、このFKだけでも見に来た甲斐あったねぇと少女マンガのような涙目を交わし合う。結局試合は1対0のまま終了し、マドリーは5位という不本意な成績で今シーズンを終える。でも私の鳥肌は、いつまで経っても消えなかったんだ。
翌週24日は、件の欧州チャンピオンズ・リーグ決勝戦。我らがレアル・マドリーと対するのは、同じスペインのバレンシア。実はスペイン勢、準決勝の時点で3チームを占めるほどの強さだったのだ。現在UEFA(欧州サッカー協会)ランキングでも、イタリアを抜いて1位という評価らしい。そら城選手はなかなか活躍できません。
レアル・マドリー、バレンシアともに、国内リーグ戦で優勝を飾ることができなかったのでなんとか手にしたい優勝トロフィー。試合開始は夜9時ちょっと前。マドリの街では車の数が急に減り、賑やかな笑い声を響かせていたバルのテラサ席から人影が消える。バレンシアでも、スペインの輸出入の要である国内屈指の港を閉めてしまったらしい。準決勝で姿を消したバルセロナを除き、スペイン全土が熱い注目を集める中で試合開始。
これがあのリーガ最終戦でバジャドリー相手に不甲斐ない試合をしたあのマドリー? と目を疑いたくなるほどの素晴らしい内容で、試合は終始マドリーが支配。目がちょっと離れていて神経質だけどやはり素晴らしいスペイン代表FWであるモリエンテス(Fernando MORIENTES)、これぞまさにイギリスの貴公子という品のある顔立ちも輝く金髪も全てが憎らしいマクマナマン(Steve McManaman)、そして我らがグアッピシモにして熱狂的ラウリスタという言葉までを生んでしまったスペインで最も人気のあるラウル(RAUL Gonza'lez)がそれぞれゴールを決め、3対0で圧勝。なぜかあの頼りないディフェンダーだったイバン・カンポまで活躍しちゃったから、バレンシアにいるあのクラウディオ・ロペスも動けずじまいだった。
ゴールの決まった瞬間、そして優勝が決定した瞬間はマドリの夜空に花火が上がった。通りは爆竹だの笛だの見知らぬ人と肩を組んで『カンペオ〜ネス、カンペオ〜ネス、オーエ、オーエ、オーエ』(どうも『オーレ』は『オーエ』になってしまうらしい)と歌い続ける人たちだの無節操に鳴らされ続ける車のクラクションだので騒乱状態。
そしてどうやらシベーレス広場の噴水が阪神ファンにとっての道頓堀にあたるらしく、ここを目指して市内の至るところからマドリディスタが続々と結集する。今年は当局があらかじめ噴水の水を抜いておいたのだが、テレビで中継を見ているとそんなことおかまいなしに人の輪は膨れに膨れる。その長さ、実に数キロ。レポーターが「こちらには日本人の姿も見えました」と言っていたのは、『わてら陽気な七人組』のJ君とK君(とN君)なのか、はたまた空飛ぶバイラオーラのSさんなのか。
今年はちょっと乗り遅れたが、来年は私も騒いでみようっと。だってリーガで4位までに入らなかったけど優勝したからマドリーは来年の欧州チャンピオンズ・リーグに出れるし、マドリーは今回8回目と最多優勝回数を更新中だし、ロベカルがいればまたきっと来年も優勝するからね。そう、ロベカル! マドリーのファンをマドリディスタ、ラウルのファンをラウリスタと言うなら、私はロベカリスタでありやす。