"はつやすみ"

 去年、マウイから帰ってきたばかりの成田空港のファミレスで「ソーフードドリア!」と喜色満面で注文して世界を震撼させた我が姪っ子、Mちゃん。現在小学3年生の彼女がまだ江東区の仏教系幼稚園に通っていた頃にもらった葉書には、ミロ顔負けの抽象画とともに、「はつやすみは、どうですか?」と書いてあった。

万が一にも「なつやすみ」の書き損じではあるまい。いやしくも、島原の顔をした江戸っ子である。「カナおねえちゃん(彼女は実は私がおばさんにあたるという真実を知らない)は相当な決意を持って会社を辞めて、これが本当の意味での人生の初めての休みだね。どうですか?」と言いたかったに違いない。


 スペインに来て、丸9ヵ月が過ぎた。あっという間だった。切手屋を探してさまよったこと第2話参照)や、移動遊園地に遭遇して狂喜したこと第4話参照)など、遥か昔の話のようだ。

海外旅行は経験があったが、海外に住むというのは、やはり全く別のことだった。手探りでしか進めない道。時には一人で泣き、時にはダンナに八つ当たりをし、時には思いがけない優しさに遭ってニヤニヤしながら街を歩いた。

近くのスーパーでレジをしているアルヘリーネスが「カナ、最近来なかったじゃん」と声を掛けてくれ、こちらに来て初めて得たかけがえのない友人のKちゃんが紹介してくれたトリニは「カナ、今度はすぐ返事ちょうだいね」とメールをくれるようになった。それでもまだ、手探りの中で過ごしている。

今日は炎天下に病院へ行く道を間違えたところ、道を尋ねたモロッコ人母子が病院まで一緒に歩いてくれた。スペイン語が難しくて、と溜め息交じりに言ったら、8歳だというシネール君が「じゃ、僕とママが教えてあげるよ」と言ってくれた。どう言えば伝わるだろうか、涙が出るほど嬉しかったんだ、本当に。


スペインに来て、丸9ヵ月が過ぎた。ここで知り合ったスペイン人からも、日本人からも、本当に大切にしてもらっている。それに応えたいと焦るばかりで、まだ何もできない。自分の語学力のなさに愕然とし、皆が真摯に精一杯生きている姿に頭を垂れ、独り、いやダンナとふたりで歯痒い思いを噛み締めながら暮らしている。

でも、まだ何もできないけど、私たちも頑張ってきたよ、9ヵ月。その時々、誰かの支えがなくてはできなかったけど、いつも真摯に取り組んできたつもり。こんなにふたりで励まし合って生きたのは、初めてだよね。私は私なりに頑張ってきたけど、あんたはそれ以上に精一杯やってくれた。本当にありがとう。


 ということで、そんなふたりの「はつやすみ」。車を運転しながらアンダルシアをまわった去年11月のバカシオネスと打って変わって、今度は本当にゆっくり休暇を楽しもう。あんたが海を見たいって言ったから、行き先はスペイン領カナリア諸島

そんでもって帰ってきたらさ、また一生懸命生きようね。一緒にさ。今のところ、あんた以外のパートナーは考えらんないからさ。



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