<ヘイ YO! オレ、カナマドリでYO! ナーイスなダンナを紹介するぜ。 と、インチキラップ調で始めてみました今回のカナマドリ。なぜに心ウキウキ痛快通り(古い……)、なんとなればお題がダンナだから。全世界8.000万ダンナファンの皆さん、お待たせしました。めくるめくムンド・デ・ダンナ(ダンナの世界)が始まるよ!
皆さんご存知のように、みてくれに惹かれて走行距離8万キロで買ったものの予想を遥かに上回りエアコン・全電気系統・ブレーキと故障を繰り返すプジョー306をこよなく愛し、子どもが産まれたら名前は雅之だし31番という数字を見るだけで「ええことあるで」と胸を躍らせるほど阪神タイガースと掛布雅之をそりゃもう愛し、プジョーと同じくオンボロで阪神と同じく直情型の私をこれまた素晴らしく愛する、我がダンナ。
自分の体温に驚いて倒れるし(第十三話参照)、歯医者の暴挙にも笑顔で応えるし(第十八話参照)、アラビア語はさすがにわかんないけど(第五話参照)、素敵な素敵な我がダンナ。
そんなダンナの最大の弱点。それは、髪。日本にいた時に美容院で「あら、若い頃はずいぶんワルかったんですね。ソリコミじゃなくて、ヌキコミなんて本格的!」と言われてから(当時20代前半)、長いサラサラ髪が彼の前頭部を覆うことになった。少しでも雨に降られれば「あかん、酸性雨にやられてまう」と慌て、なんかの拍子に髪の毛が抜けてしまえば「あぁ! ここ、もう絶対二度と生えてけえへん」と嘆き、正面から風が吹こうものなら「どう? おかしくなってへん? ちゃんとここ、隠れてる?」と取り乱す。前髪なくんばダンナなし、それほどの気合が込められていた。
ところが、スペインに住みはじめて。「なんか俺、浮いてんちゃう?」
確かに周囲を見回すと、みんな、とても短い。リッキー・マーティンやエンリケ・イグレシアスを思い出してもらえればわかりやすいが、印象の度合いで言うと、顔が9に対して髪が1くらいの割合。紳士服店のマネキンさながらに、髪の総量が少ないのだ。さらに、額に前髪がかかっている男性というのが、これまた少ない。天然パーマのかかった髪が少し額にかかっている場合はあるが、間違っても眉のあたりまで伸びていることはない。
いや、いるんだけど。でもやっぱり少数派。同じラテン系でも、「豊かなうなじを、汗に濡れた巻き毛が這う。長いまつげに縁どられた大きな瞳が、ゆるやかなカールを描く前髪の奥からこちらを見ている。湿りをおびたため息で、眞っ赤な薔薇が微かに揺れた」というイメージが似合う(ような気がする)イタリア男性と比べると、スペイン男性の短髪ぶりは明らか、でしょ?
とにかく、どうもスペイン男性は短髪が多い。長髪はいささか注目を引いてしまうようだ。これ、和を重んじるダンナとしては、どうにも居心地が悪いのだ。そしてついに先週、ダンナは決意した。「みじこうするわ。もう」
なにが「もう」なのかはよくわからないのだが、こうしてダンナは悪夢の丸坊主高校時代以来12年ぶりに、前髪と別れを告げる決意をしたのであった。
秋晴れの日曜日。南に面した部屋に、こころもち恥ずかしげなダンナが座っている。背後に立つ私、手には切れの悪くなった工作ハサミ(380ペセタ、約220円)と、ホテルからもらってきていたコーム。「ほな、切るで」と前に回り、いきなり前髪をバサリ。撃たれた鳥のようなダンナの悲鳴。アハ、おもしろい。「次、横、切るもんね」 バサリ。「ほんまにちゃんとやってや」とダンナのか細い声。「はーい、反対側の横」 バサリ。「実は切り過ぎてんちゃう?」ダンナの震え声。あぁ、おもしろい。
2時間経過。ハサミをスーパーの安売りで買ってきたバリカン(880ペセタ、約500円)に持ち換える。最初から刃が斜めになってるけど、斜めに刈っていけばいいよね。「ね、3mm、6mm、9mm、12mm、どれがよか?」 「3mmいうたら、軍隊やん」 「あー、それでも良いね」 かくして、遅れて来たカリアゲ君、完成。
おそるおそる鏡を見るダンナ。「えーっ、まじでーーー。っていうか……。なーんや、けっこういけてるやん、俺」 良かった、バカダンナで。
「おっとこまえやなー、あんた、かっこええわー」と誉め倒しながら目にも鮮やかな短髪にムースを付ける。ハイネックのちょっとぴっちりしたセーターとチノパンを身に付け、"Panama Jack"の革靴を履いて仕上げ。ザ・現代スペイン男性風。本当は「KETAMAのボーカルまたはスペイン色男またはチンピラヤクザ」風に、素肌にシャツ着て、第2ボタンまで開けてみてほしいんだけど、いかんせん、胸毛までは真似でけへんもんな。でも、オ・ト・コ・マ・エ!
今日は日曜日でデパートやほとんどのお店、レストランは休み。だからちょっと郊外までドライブして、バルで軽く飲もうか。ガリシア風のタコでもつまみながらさ。ご機嫌さんのダンナについて、家を出る。実は後ろからみると、ダフッた後みたいになってんねんけど……、ま、いっか。
良いよね。きっと許してくれるわ。だって、ダンナ、だもん。
ウフ。