語学学校、1ヵ月経過。今月から都心の小学校よろしく人数減によりやむなくクラスが合併されることになり、クラスは5人から12人に、先生は「冴えないけど真心いっぱいバジャドリー男」アグスティンから「コロッケの美味い肉屋のおかみ風」モンセラーに変わった。でも、隣の席で微笑むのは、変わらぬアミナちゃん(第38話参照)。
毎日こうして机を並べるアミナちゃんは、モロッコはタンヘル(タンジール)出身の18歳。相変わらず、漆黒の瞳が美しい。よく理解できないときにはひっそりと眉をひそめるのだが、これまた美しい。だから私はポケランと開放系のこの顔をだらしなく弛ませて、またアミナちゃんを見つめてしまうのだ。あぁ、タンヘルから来た一輪の花よ。
スペインとヒブラルタル(ジブラルタル)海峡を挟んで向かい合うモロッコの中でも、海峡横断のフェリーが発着するタンヘルは、スペインとの繋がりが最も深い地域である。日常生活には、スペイン語がかなり溶け込んでいるということだ。だからアミナちゃんも、スペイン語での会話にはそれほど苦労しない。ではなぜ、わざわざ語学学校に通うのか。それは、セレクティビダーのため、なの。
セレクティビダー(selectividad)とは、入学選抜試験。日本でのセンター試験のようなもの、かな。アミナちゃんは、現在グラナダで学生生活を送っているお兄ちゃんのように、スペインの大学に行きたいのだ。試験は6教科。外国語(彼女はフランス語を選択)と、地理と数学となんだっけ、それにスペイン語。だから、文法を勉強したいんだって。
来夏のセレクティビダーに向けて、アミナちゃんは、現在猛勉強中。12時30分に授業が終わると、パタパタと地下鉄ソル駅へ駆けていく。ここから別の学校に行って、ある日は数学を4時間、またある日は地理を3時間……と勉強しているのだ。「あたしもそういえばさーぁ、高校時代って、睡眠時間4時間とかで毎日勉強してたもんさぁ」とあくびまじりの間延びした声で話す私の顔を、信じられない! ってきもちを隠しながらの笑顔で見つめる。
先週。授業後に「お腹空いたなぁ。ビッグマックでも買って帰ろっかなぁ」なんて呟いてたら、アミナちゃんが「私もペコペコ」と両手で可愛くおなかを押さえる仕草。「じゃ、一緒に買わない? 今、ちょうど2コで500ペセタ(約300円)だし」と誘うと、その両手をパアに開いてお手上げ、の格好。「あのね、今日からラマダーンに入っちゃったの」
アミナちゃんは、敬虔なイスラム教徒。酒は飲まないし豚肉は食べないし、コーランはぜんぶじゃないけど覚えてる。もちろん、ラマダーンだって、ちゃんとやるのだ。ラマダーンの期間中は、日の出から日没までは断食をしなければならない。アミナちゃんの手帳にはちゃんと「ラマダーン期間中の日の出と日没の時間一覧表 / マドリッド編」なるプリントが挟んであった。
「じゃ、痩せるんじゃない?」と聞いたら、夜に食べ溜めしちゃうから却って太っちゃうみたい、と可愛く首をすくめる。昨日は「今日は朝から雨じゃんか。きっと、今日は太陽、昇ってないよ。なんか食べに行かない?」と悪魔のささやきを仕掛けたら、涙を流してキャアキャア笑いながら手を振った。おっちゃん、たまらんばい。
そんなおっちゃんこと私。語学学校からバスで40分かけて帰宅。3時頃にダンナと肩を並べて昼食をしたため、ダンナを送り出した後は5時までシエスタ。食器を洗い、洗濯物を畳み、「アミナちゃん、今頃、数学を勉強しながら眉をひそめてるかなぁ」とニヤニヤ笑いながらモップで床を拭く。毎日やってるクイズ番組(平日はだいたい毎日同じ番組というシステムなのだ。なんでやろうか)を見ながら、小休憩。
7時、スペイン語の予習と復習。綴じがバラバラになった辞書(扱いが荒い)に、今日もまた怒りをぶつけてしまう。知らない単語が多すぎる。切なく辛いぜ。あぁ、我が勉強は苦悶式ナリ。8時半、夕食の準備。
そして9時、お楽しみの「ほぼ日刊イトイ新聞」。「鳥越俊太郎のあのくさ、こればい!」から始まり、おもしろそうなコーナーを見てまわる。メールチェック、金にならない文章書きなど。やがて、愛しいダンナ帰宅。
と、取って付けたようだけど。「ほぼ日」、おもしろいです、私。
うーむ。やっぱり、取って付けたようだ。でも頼まれたしな(※)。いっちょ、書くぞ。
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少なくとも、アコギな感じじゃござんせんぜ。おっと、アコースティック・ギターじゃなくって……。って、なんで言っちまうんやろなぁ、私。
今回もやっぱりオイヤン風のオチなのね。ン 泣けて〜くぅ〜るぅ〜、ジャン。
※註: 当時、読者を増やそうキャンペーン中で、ほぼ日のサイト上で呼びかけがなされていたのでした。