"日本って、知ってる?"

 我が家から通りを挟んだところに、小さなスーパーがある。小さいとはいえ、中には豚肉・牛肉屋、鶏肉・兎肉屋、そして魚屋があるもんだから、週に数回は買い物に出掛けている。先日、サバとカレイを買って帰ろうとすると、魚屋の兄ちゃんが突然「サヨナラ!」と叫んだ。

以前から、「まだ何か買うか」という問いに「ナダ マス」(ありません)とスペイン語でちゃんと答えても「ナッシング?」と聞き返す、無闇に外国語を使いたがる兄ちゃんだった。ちなみに、こちらの最大手百貨店「エル コルテ イングレス」で2mおきに立っている店員に拙いスペイン語で話しかけてみればわかるが、魚屋の兄ちゃんと同世代の彼らもすぐ「少しは英語わかります」と言って英語で会話したがる。そこで、スペインの一般的市民はほとんど英語を話さないから有難やと「まっすぐ行って右へ曲るんですね」(Go straight, and turn right?)てな簡単な問いかけをしてみると、彼らは悲しげに首を振って「そんなにはわからない」と言うのだ。無闇である。矢鱈である。

というわけで魚屋の兄ちゃんが英語を多少というか少々話すのは知っていたが、「サヨナラ!」には驚いた。きっと、こっちでまだ人気の高いドラゴンボールや、日本のマシンをそのまま置いているゲーセン(「4人まで対戦できます」と表示されている)で覚えたのだろうと思っていると、さにあらず。スペイン人の若者がほとんど見たという人気映画「ターミネーター」からだったのだ。

あの映画でアーノルド・シュワルツェネッガーが放つキメ台詞を覚えている? そう、「アスタラビスタ、ベイビー」。日本語吹替版でもそのままの台詞だったはず。ところが、「アスタラビスタ」(また会いましょう)というのがスペイン語なもんだから、スペインでそのまま上映するとただの一般的な別れの挨拶になってしまう。わざわざシュワルツェネッガーが振り向いて「ほな、また」と言う、なんとも間の抜けたシーンになってしまうのだ。そこでスペインの配給元が考えた台詞が、「サヨナラ、ベイビー」。こうして、「サヨナラ」という言葉がスペインの若者に浸透したのであった。


 さらに一般的に浸透している言葉もある。ご多分に漏れず、「スシ」。現在、デリバリー寿司(「テレ・スシ」)が大盛況。中国人やスペイン人が経営する数店が凌ぎを削っている。さらには近日中に、日本人経営による回転寿司もオープンするらしい。

意外なところでは、「スリミ(擂り身)」。スーパーの広告を見ていたら「surimi」と出ていたので驚いたのだが、みんなもはや日本語とは知らずに使っているらしい。


では、スペインで有名な日本人は誰でしょうか?


以上が、スペイン人若者10名にインタビューしたらだいたいこんな結果だろうという上位3位。いやマジで。3位の「ヒデ」はご存知・サッカーの中田英寿。彼は世界選抜にも出たし、やはりサッカー人は有名。2位の「ノリック・アベ」は、日本では一般的にはそれほど知られていないんじゃないかな、オートバイ・レースの選手で本名は阿部典史。500ccのクラスで好成績を挙げており、オートバイ・レースの盛んなこの国での知名度は絶大。250ccや125ccで活躍する宇川徹、岡田忠之なども有名人。ちなみにノリックは現在ある広告に起用されているため、今月に入って町中の至る所で彼の顔を見かける。あまり日本人を見かけないので、慣れるまでドキドキした。そんで1位の「セニョール・ミヤギ」。わかった人もいるのではないだろうか。映画「ベスト・キッド」(スペインでは「カラテ・キッド」)のおじいちゃん。とにかく映画は人気があるのだ。すべてのTV局が、毎晩映画を上映するんだから。


 日本製の自動車やゲーム機、電化製品、アニメの人気はやはり圧倒的。では、どのくらい日本を知っているかというと……、まったく知らないというのがおそらく正解。日本の位置がわからないのはもちろんだが、中国の一部と思っている人も多い。台湾や韓国やインドネシアともども、中国のどっかにぐちゃーと集まっていると思っているんだろう。

先日、ダンナの勤務先(日本のものを扱っている)へ、中学生とおぼしき見目麗しいスペイン美少女2人がやってきた。応対に出た他の日本人スタッフに対し、「あの人を呼んでください」とダンナを指差す。ダンナがいそいそと出て行くと、「あのぅ、これ、読んでもらえますか」と恥ずかしげに手紙を差し出した。ダンナが受け取ってみると、アラビア語。困った顔のダンナに、「この手紙もらったんだけど、私たち読めないの。読んで教えてください」と未来の美女2人が可愛くお願い顔をする。ダンナが申し訳なさそうに「ごめんね、これ、アラビア語だから読めないよ」と手紙を帰すと、恥ずかしそうに「えっ、そうなの? ごめんなさい! てっきり中国語かと思ってたの!」と言い残してバタバタと帰ってしまったらしい。おい、まだ間違ってるよ……。

残されたダンナに秋の風。



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